ソニーのリチウム電池事業を村田製作所に売却するというニュースを読みました。
私が会社に勤めていた時に業務用の携帯コンピュータの設計をしていたことがありました。1980年代はニッケルカドミウム(ニッカド)電池を使っていました。ニッカドはなかなか難しいデバイスで品質問題を起こしたことがありました。それ以降電池を使った電源の設計には非常に慎重になりました。
その後ニッカドよりも容量の多いニッケル水素電池が出荷され始めました。ニッケル水素電池の充放電管理はニッカドよりもさらにクリティカルで注意が必要です。その割には容量がニッカドの1.2倍程度なので設計者としてモチベーションが起きませんでした。
時を同じくしてリチウムイオン電池開発の情報が入って来ました。海のものとも山のものとわかりませんが非常に魅力的な仕様でした。ATバッテリが最初にサンプルを出しました。確かATバッテリの吉野さんという方がリチウムイオン電池の基本技術を開発したと思います。直接話を伺いました。
リチウムイオン電池の魅力は容量あたりの重量が軽いことで携帯コンピュータには非常にありがたいことです。また充電制御が比較的簡単です。ただリチウムというと発煙・発火などの心配があるので気になりましたが製品の競争力を高めるためにすぐさま検討・評価を始めました。
するとソニーからもリチウムイオン電池の紹介がありました。ATバッテリが基本技術を持っていると考えていたので当初は特許の問題など???でしたが打ち合わせを重ねるうちにソニーのリチウムイオンの可能性も膨らんで来ました。そしてソニーのハンディカムにリチウムイオンを使う予定との話を聞いて段々ソニーのリチウムイオンを使う意向を固めました。
基本技術ではATバッテリが先行していたと思いますがソニーはバッテリを使う最終製品を持っていたので先にバッテリの商品化に成功したと思います。それが私達がソニーのバッテリを採用すると決めた理由の中で大きなものです。
私達はハンディカム用に発売される前にバッテリパックの仕様とサンプルの提供を受けて検討しました。携帯コンピュータでは特別仕様が必要なのでカスタム品の提供を打診しました。すると非常に積極的に対応していただきあっという間にカスタム品のサンプルを提供してくれました。
リチウムイオン電池は初物なので私達はかなり大規模かつ慎重な評価を行いソニーと情報共有をしました。この情報はソニーにもかなり有用だったと思っています。そして従来のニッカドやニッケル水素を凌駕する満足すべき結果を得て商品化を行いました。
これはおそらくビデオカメラ以外の機器としては初めてリチウムイオン電池を使った製品だったと思います。軽さが重要な携帯コンピュータではそこそこ売れてロングセラーになりました。
これは私が会社に貢献した数えるしかない製品の一つです。
その当時はソニー・エナジーテックという会社でした。開発の方も営業の方もソニー出身で積極的で恐いもの知らずの感じでした。私も若かったので製品の競争力を高めようとしてお互いに共鳴してどんどんと進んだように思います。
20年以上も前のことです。