最近ある方のスピーカーの音がおかしくなってしまったという相談を受けた。
その方の住まいが遠くて実際にスピーカーの音を聞くことができなかったが、その方のスピーカーと同じメーカーの似た構成のスピーカーを私が持っていたので、お互いの測定データをメールでやりとりしながら検討した。
しかしデータからは原因が特定できなかった。しばらく様子を見るということで一旦クローズした。
以前はスピーカーの周波数特性を測定するには高価な装置が必要だったが、今ではPCやスマートフォンがあれば測定ができてしまう。本当に便利な世の中になった。
私の試聴室(というほど大げさな場所ではないが)では製品の長期試験で6セットのスピーカーを切り替えて音楽を聴いている。スピーカーの音と特性の関係について我が家のスピーカーで実際に調べてみようと思い、設置した測定環境を使ってそれぞれのスピーカーの測定をした。
無響室ではないがマイクをスピーカーから50cm程度の位置に設置すれば部屋の影響を低減してスピーカーの特性を知ることができる。スピーカーによっては設置場所(壁や床からの距離)が違うものもあるのであくまでも参考データだ。後述の①と⑥はスピーカーの設置場所が他のものと少々違う。
測定にはefuさんの WaveGenとWaveSpectraを使用させていただいた。
サンプリングを96kHz/24bitとしたのでA/Dは20kHzまでは問題なく測定できている。しかしマイクの周波数特性は15kHz程度までの保証なので15kHzまでを有効なデータと考えて欲しい。
測定したスピーカーは以下の通り。
① 山水 SP LE-8T + 075
② ビクター SX-3Ⅱ
③ ProAc Studio100
④ Tannoy Autograph mini
⑤ キット屋 LM755A + ランドセル
⑥ Electro-Voice 409-8E 平面バッフル
⑦ Bose 101
⑧ ステレオ2012年8月付録 ScanSpeak10cm+共立電子ダブルバスレフ
周波数特性の測定データ
① SP LE-8T
特性: 結構低域が伸びている。シングルコーンの特徴で周波数特性のうねりが大きい。075をつけているが高域は低下している。075はコンデンサで低域をカットしアッテネータを入れているのみ。30年以上前のもの。LE-8Tのエッジはウレタンで痛みやすい。3度張り替えた後、セーム皮のエッジに交換した。
音: このスピーカーは迫力がありながらその一方でフォーマルな感じがする。そして規範となるような音を出す。Jazzを良く聞かせてlくれるが、Classicもよい。ダイナミックレンジはかなりある。我が家のスピーカーの中では優等生だ。
② SX-3Ⅱ
特性: 意外に良い特性だが、100-400Hzのレベルが低いのが気になる。高域は素直に低下していて好ましいが多少ピークがある。しかし製造後30年以上経過しノーメインテナンスでこの特性は素晴らしい。
音: 家内が使っていたスピーカー。音は意外によい。しかし控えめな感じがする。ここぞという時の押し出しが弱い。しかしどんなジャンルの音楽も無難に聞かせてくれる。もっと個性があっても良いと思う。
③ ProAc Studio100
特性: 素直な特性だ。2.5kHz付近のディップが気になるがこれは測定によるものだ。周波数特性の山と谷が比較的少ない。
音: 能率が低いので切り替えた瞬間には痩せて聞こえるが実は音が良い。能率補正して切り替えるとすごく説得力がある音に聞こえる。80Hzくらいのピークのせいか低音が豊かに聞こええてピラミダルな音に聞こえる。高域がのびているが刺激的ではなく渋い良い音だ。Jazzも良いがClassicのほうが合うかもしれない。
④ Autograph mini
特性: 小型にしては帯域が広い。12kHz付近の大きなディップが気になる。1kHz以下は徐々に低下している。
音: 端正な音であり癖がない。しかし低域のレベルの低さが感じられる。普通に聞くと面白くない。壁に近づけて聞くとかトーンコントロールで低域を持ち上げるとかスーパー・ウーファーと一緒にならすなどが前提のスピーカーだと思う。
⑤ LM755A ランドセル
特性: WE755のレプリカモデル。箱はWEの通称ランドセルをデラ工房さんが再現した。周波数特性はいわゆるかまぼこ型。そしてフルレンジなので分割振動による山谷が多い。700~1.5kHzの山谷は気になる。しかし測定によるものだと思う。
音: 聴感上もかまぼこ型とわかる。しかしかまぼこ型の心地良さが身にしみる。1kHz前後のピーク・ディップは全く気にならない。味わいがある音だが、何に起因しているのだろう?構内放送に使っていたユニットなので月並みだがボーカルが特に良い。ボーカリストの口の動きがわかるようだ。
⑥ Electro-Voice 409-8E 平面バッフル
特性: ユニットも癖がありそうで、箱は平面バッフル。それでも意外に低域が伸びている。1~3kHzの山はこのスピーカーの音を特徴づくっているだろうと予測できる。また同軸型のため高域が結構のびている。
音: 能率の高さと相まって元気が良い。やはり中域のレベルが高いので本当に元気が良い。しかし音は少々歪っぽい。でもこの音がJazz(ブルーノートみないな)やブルースに絶妙にマッチする。Classicには少々違和感があるが、これはこれで良い。ワーグナーなどはいい。 バッフルも鳴りやすいので、それも音に影響してにぎやかになっている。
⑦ Bose 101
特性: 10cm一本で再生する特性としてはすばらしい。そして低域のレスポンスを欲張らないのでダイナミックレンジを確保しているのだと思う、これも良い意味でかまぼこ型だ。これも30年近くノンメインテナンス。その意味でも素晴らしい。
音: 最近はあまり使っていないが最初に聞いた時はその音の良さに驚いた。音楽を聞いて感動するために必要な要素はもっていると思う。
⑧ ScanSpeak10cm+共立電子ダブルバスレフ
特性: つい昨日箱にユニットを取り付けた。f特を見ると素晴らしい。これが10cmのスピーカーかと思う。でも無理しずぎな感じもする。
音: まだしっかり聞いていない。でも特性からわかるように低域から高域までよく出ているように聞こえる。音の定位や広がりが良いと思う。様々なソースを聞いていないのでわからないが活気がある音楽に向いているようだ。
以上の通り聴感と周波数特性の相関が結構あることがわかる。聴感は私の主観なので普遍的ではないし、それぞれのスピーカーの設置状態が違う。それでも周波数特性を見るとスピーカーの音を表していると思い、納得する。ちゃんと特性に個性が現れている。
歪率も測定したので次回はその特性を紹介しつつ音質との関係を考えてみたい。