松本市のハーモニーホールにパイプオルガンが設置されている。震災によりホールの天井にひびが入って閉鎖されていたが修繕して昨年オープンした。
ホールオープンに伴いオルガン講習会を再開した。これは一般の人がホールのパイプオルガンを演奏することができる講習会だ。専属オルガニストの保田先生が教えてくれる。松本市以外のオルガンを持った施設でこのような催しが行われることは非常に稀だそうだ。
家内はこの講習会に参加しオルガンの面白さに目覚めたようだ。オルガンに興味を持ったきっかけは私達の友人がオルガンを習っている先生が震災で松本に移住して来たことだ。それで家内はオルガンに興味を持ち勉強を始めた。その後家内はオルガン同好会に入り熱心に練習を続けている。
オルガンと言っても昔小学校にあった足踏みオルガンやエレクトーンなどに代表される電子オルガンから音楽ホールや教会にあるパイプオルガンまで値段もサイズも大きな幅がある。
私は子供の頃ピアノを習っていたが、私の家はピアノを買えなかったので電気オルガンを買ってもらい練習した。これは足踏みオルガンの足踏みをモーターに置き換えたものであり発音原理はハーモニカと同じリードである。それは私が幼稚園から小学校低学年の頃なので世の中にパイプオルガンがあることなど知る筈もなかった。オルガンはピアノの代用品だと思っていた。
今考えるとオルガンとピアノは全く別の楽器でありむしろピアノがオルガンの代用品であるとことがわかる。正確な歴史や事実はわからないが以下のように想像する。先ずオルガンがありそれを貴族や中産階級の家に作るは大変なので代わりにチェンバロなどが発明された。チェンバロはパイプオルガンの代用品であったがその後オルガンとは異なる個性が重用され、その個性を伸ばす方向でピアノが開発された。
一方でオルガンは教会と密接に関係しながら存続・発展した。パイプオルガンはとてもコストがかかるので電子技術の進歩によりハモンドオルガンなどが発明された。当初はハモンドオルガンは教会のオルガンの流れをくむ構造だったが様々なバリエーションを加えて進化した。
日本ではヤマハのエレクトーンなどが有名だがこれは良く見るとパイプオルガンとは鍵盤やペダルの配置が異なり独自のアレンジを加えたものだ。このアレンジはヤマハが自分で行ったものかハモンドを範としたものかはわからない。
今まで全くオルガンのことなど考えたこともなかったがこうしてみると実に奥深く不思議な楽器だ。
家内がそうこうするうちにオルガンを購入した。そして家内が待ちに待ったオルガンが昨日我が家にやって来た。
色合いは我が家にマッチしている。ピアノでは白い鍵盤が黒く、黒い鍵盤が薄い木の色だ。ペダルの音域が広い。エレクトーンでは左側だけにペダルがあり片足で弾くがオルガンはペダルを両足で弾くそうだ。家内はその違いに苦労している。またオルガンでは第一鍵盤と第二鍵盤の左右の位置が揃っているがエレクトーンでは第一鍵盤と第二鍵盤の左右の位置がずれている。(オフセットしている)何故ヤマハがこのように変更したのか?繰り返しになるがその設計思想には興味がある。
(その後家内の話によるとエレクトーンでもオプションでオルガンと同じ配置の鍵盤があるそうだ。だたペダルにはオルガンと同じ音域のものはないという。)
このオルガンの鍵盤やペダルはパイプオルガンに倣っているが当然中身は電子楽器だ。つまりパイプオルガンのU/Iを持ったシンセサイザーと言える。
説明書を見ると従来の機種はサンプリングしたパイプオルガンの音を再生していたが、この機種ではパイプオルガンの発音モデルにより音を出していると書いてある。
すなわち空気を送り音が発生するモデルとパイプにより共振するモデルをDSPで実現して音を出している。現在シンセサイザの世界がどうなっているかわからない。昔はFM音源のような実際のモデルとは異なるがそれらしい音が出る音源を使っていた。それから実際の音をサンプリングした音源に変わった。今モデリングした音源を使っているのだろうか?
シンセサイザは発音する楽器の種類が多いのでモデリングは大変だと思う。オルガンはそれだけモデリングすれば良いので比較的簡単にモデリングできると思う。しかしホール等にあるパイプオルガンを借りて傷をつけないように計測するのは大変だと思う。でもモデリングできれば、パラメータを変えていろんなホールや教会のオルガンの音を再現できる可能性がある。ただホールや教会の空間の音響特性まで含めてモデル化していないようなのでそれも含めると面白い。実際、残響の多いホールでは自分の弾いた音が聞こえてきて混乱することがある。楽器で残響まで再現してくれると本番で困らない?
以前かかわっていた音声合成でもモデルによる方法とサンプリングによる方法がある。発声モデルによる方法は品質が悪いが少ないメモリ量で実現できる。一方サンプリングによる方式はメモリ量は必要だが品質は良い。
オルガンではモデル化した方が音が良いとマニュアルには書いてあるがこれは音声合成と逆だ。私は同社のサンプリングによる機種の音を知らないのでなんとも言えないがそれは以下の理由によると思う。
①パイプオルガンのほうが発音モデルはシンプル。発音部もフィルターも一定、送風部のADSR(時間応答特性)のみ考慮すれば良い。しかし人間の発生モデルは複雑。声帯の振動も、喉から口に出るまでのフィルター特性も時々刻々と変化する。これをモデル化するのは非常に難しい。(というかMIPSとメモリを消費するのでモデリングによる手法のメリットが無くなってしまう。)
②音声合成や音声認識は世界の知恵が結集されてきた。しかし音楽に関してはそれらの技術フィールドより多少遅れた技術が投入されて来た。したがってコンピュータ業界よりは後になってモデリングの技術が入って来たと思う。特にパイプオルガンの系統の電子オルガンはあまり市場が広くないので新技術の導入には時間がかかると思う。
家内がオルガンを購入したのをきっかけにオルガンについて考えてみた。そして不思議な楽器であり奥深いことを本当に感じた。私も子供の頃の電気オルガンに始まりこのオルガンに終わるか?
それとエンジニアとしてオルガンの中に入っている音源、アンプとスピーカーがどうなっているか見てみたいと思う。
オルガン! すっごい素敵ですね!!
クラシカルな佇まいと、そこから奏でられるであろう神秘的な響きを想うだけで、ワクワクします
教会のパイプオルガン、小学校の先生が伴奏してくれたオルガン、ハーモニカ、、、
ハモンドオルガン、レスリースピーカー
意外と原始的な楽器なのに、とても哀愁やロマンがありますね、、
私は、ヤハマの創業者、山葉寅楠の逸話が大好きです。
浜松尋常小学校のオルガンが壊れて、彼なら直せるだろうと呼ばれた山葉が、これなら自分でも作れるかもしれない、と、その構造をスケッチして、作ってしまった、、というお話です。
発音方式の話も面白く拝見しました。
技術者としてはサンプリングよりモデリングに挑戦したいですよね、、、ハードパワーがそれほど無かった頃に考案されたFM音源など様々な発音方式についても、どこかでは自然界の音の原理と通じているところがあるのでしょうね
何が良い音か? どういうアプローチがあるのか? 森羅万象千差万別?(笑)ですね