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技術解説

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PCM1704を使用する意味

 

PCM1702とPCM1704の違いは扱うビット数の違いです。PCM1702が20bit、PCM1704が24bitです。PCM1704はPCM1702より4bit分つまり24dBダイナミックレンジが大きくなります。しかしそれはPCM1704を24bitで使用した場合です。NUMERIKのDACチップ交換してもDACの前段のディジタルフィルターを交換することはできません。(注1)
NUMERIKではBurr-Brown製のDF1700というディジタルフィルターを使っています。
このフィルターは内部演算20bit、出力フォーマット20bitのフィルターです。(注2)
PCM1702を24bitのPCM1704に交換してもPCM1704には20bitデータしか入力されません。PCM1704の下位4bitは使用されません。

 

PCM1702とPCM1704を同じbit数で使用した場合の特性の違いはほとんどありません。
両者のデータシートを見ても仕様の記述方法が違います。またPCM1704では24bitをフルに使った時の性能をアピールしたいので20bitで使用した場合の特性が記載されていません。そこで24bitの特性をを理論的に20bitの特性に換算して比較しても大きな違いはありません。PCM1702、PCM1704とも優れたDACチップなので両者に大きな違いは無いのです。

 

それではPCM1704を使うDACモジュールを使う意味は何でしょうか?

 

以下が音質の向上が期待できる理由です。

 

(1) リニアリティの向上
24bitの精度と全域にわたるリニアリティを確保するためにはDACの基本性能の向上が必要です。PCM1704はサインマグニチュード式DACの最高峰としてBurr-Brown社が技術の粋を込めたDACなのでPCM1702より性能が向上していると考えられます。したがってPCM1704の24bit全てを使い切っていなくても基本性能の向上が音質の向上に結びつくと期待できます。さらに本DACモジュールではPCM1704の中で最高級グレードのKランクを使用しています。これは歪率の少ないICを選別したものです。

 

無線と実験 2013年12月号168ページに河合 一氏によるDACの解説が掲載されています。ここでPCM1704を含むマルチビット方式DACの説明があります。マルチビット方式で性能を確保するために必要なトリミングは時間がかかり特別な装置が必要なのでコストが上がってしまいます。そのためトリミング不要でコストがかからないΔΣ方式が主流になった理由をこの記事から知ることができます。

 

(2) ドーターボード設計における改善
PCM1704を実装したドーターボードを音質に配慮して設計することにより音質の向上が可能です。
基板のレイアウト、使用する部品の選定により音質が向上することが期待できます。
率直に言うとオリジナルのPCM1702基板はそれほど音質にこだわっているように見えません。
PCM1704基板は以下の点を考慮して設計しています。括弧内はPCM1702基板
・グランドをベタパターンとしてグランドインピーダンスを下げる(ベタパターンを使用していない)
・電源のバイパスコンデンサに高周波特性の良いセラミックコンデンサと電解コンデンサを並列使用(ドーターボード上にバイパスコンデンサはない)
・表面実装タイプのセラミックコンデンサをICの最寄に配置し電源インピーダンスを下げる(ドーターボード上にバイパスコンデンサはない)

 

一方でNUMERIKのDACをPCM1704に換装する場合に問題となる点があります。
NUMERIKのPCM1702モジュールではアナログ電源とロジック電源を別系統にしています。しかしPCM1704ではアナログとロジック電源の間に電位差があるとICの破壊に至る可能性があるので別系統の電源を使えません。(注3)
そのためPCM1704はアナログ電源とロジック電源を一つの電源から供給します。ロジック電源のノイズがアナログ電源に混入するのでPCM1702の場合に比べて不利になります。これを設計技術でどの程度カバーできるかが課題となります。

 

PCM1704とPCM1702の歪率を以下に示します。

 

NUMERIK

 

 

両者の歪率はほとんど同じでグラフからは違いがわかりません。低レベルでの歪率はPCM1704が若干優れています。音に優位性がある差と言えるか微妙な値です。
少なくとも電源の違いによりPCM1704の特性は劣化していないことはわかります。

 

歪率の特性からは音に違いがあるかどうかわかりません。実際に音を聞いて評価してみる必要があります。

 

CDをリッピングした音源をDDC(JAVS製 X-DDC)でUSBからS/PDIFに変換してNUMERIKに入力します。
評価の結果、大幅な音質の向上はありませんでしたがPCM1704モジュールの音質の優位性が聞き取れました。

 

オリジナルのPCM1702と比べてPCM1704を使用したDACモジュールは以下のような特長があります。
・音が滑らか
・混濁感が少ない
・奥行が感じられ味わいがある
・静寂感が優れている
・ベースの胴鳴りのふくよかさが勝る

 

その一方でソースによっては違いがはっきり聞き取れない場合もあります。
ピアノ、弦楽器、声などの自然な音源のほうが音の違いが判り易い傾向があります。

 

PCM1704の能力を100%発揮できればもっとはっきりとした違いが実現できたと思います。限られた制約条件の中では大きな音質向上が得られませんでした。
しかしDACチップをPCM1704に交換することによりNUMERIKの音質を向上させることができました。
ほとんどのDACがΔΣになってしまった現在、マルチビット式DAC最高峰であるPCM1704の音を楽しむのも良いのではないでしょうか?

 

 

注1)
PCM1704を使用する場合にはBurr-Browin製DF1704のような24bitのディジタルフィルターを使うかDSPによる処理を行います。
NUMERIKではディジタルフィルターはシールドケースに収められています。
またフィルターの交換には半田付け作業が必要です。交換は事実上不可能です。

 

注2)
現在は内部演算は32bitあるいは40bitもめずらしくありません。またフィルターも単純なFIRフィルターだけでなく様々なアルゴリズムが使われています。20bitのFIRフィルターには時代を感じます。しかしNUMERIKの音は現在でも古さを感じさせません。なぜでしょうか?

 

注3)
PCM1702ではアナログとロジック電源を同一の電源から取るようにと書いてありますが絶対最大定格にはアナログとロジックの電源のシーケンスを記述していません。
一方PCM1704のデータシートにはアナログとロジックの電源の電位差をはっきりと書いてあります。
ICメーカーはPCM1702、1704とも同一の電源からアナログ、ロジック電源を供給することを前提としています。
LINNのNUMERIKでは独立した電源を供給することでアナログとロジックの干渉を減らし音質の向上を図っていると思います。

 

参考 Linn NUMERIKのSYNC機能について

 

LinnのCDプレイヤーKARIKとDAC NUMERIKは同期運転ができます。
NUMERIKのSYNC OUTとKARIKのSYNC INをRCAケーブルで接続するとNUMERIKがmaster、KARIKがslaveとして動作しジッターを低減すると書いてあります。
今までずっとNUMERIKから44.1kHzのWord ClockをKARIKに送って同期を取っていると思っていました。
しかしPCM1704モジュールを設計するのにあたりこの機能を解析したところクロックをNUMERIKからKARIKに送っていないことがわかりました。
おそらく以下のような動作だと思います。
・NUMERIKのPLLのVCOの発振周波数を固定させる
・NUMERIKのPLLのVCO入力(=LFP出力)をSYNC信号としてKARIKに送る
・これによりKARIKのPLLはNUMERIKのVCO(=マスタークロック)周波数と同じになるように動作する

 

以下はNUMERIKとKARIKの同期回路の推測図です。

 

 

NUMERIKのクロックとKARIKのクロックが同期して動作しますがPLLのループが大きくなりKARIK側のジッタ特性が少々心配です。しかしジッタがbit clockの周期より十分小さければ問題にはなりません。
NUMERIK側のVCOはS/PDIFの信号によって変動せず、一定の周波数を発振するのでジッタが少なくなります。
このような同期方法もあるのだと感心しました。

 

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