オーディオに関わっている諸先輩方に比べるとまだまだ未熟であるが私がオーディオについて考えていることやどのような方法で製品の開発に取り組んでいるかすこしずつ書いてみたいと思う。
不定期の掲載になると思うが開発方針や考え方を理解していただくために書いてみたいと思う。反面、あまりにも考えが浅い or いい加減だと言われる心配もあり不安だが取り繕っていてもいずれぼろが出るので書きたと思う。
製品の評価にはたいていCDを使う。リピート再生するなど便利だからだ。CDをリッピングしたディジタル音源を使うこともある。
私はオーディオマニアが良く聞いている高音質盤というのにあまり興味が無く、世間にどのような高音質盤があるかも良く知らない。音質の評価では何度も聞き返すので好きな演奏のCDでないとやってられない。好きな演奏でさえ何度も聞いていると疲れる。たいていは最初に一聴した時の評価が正しいが、再現性を調べたり元のデバイスに戻したり自分の判断が本当に正しいのかを確認するために何度も聞き返す。音質評価の手法を確立しないと本当に大変だ。
それと話が少しずれるがクラシックの再生で音の定位が良いとか悪いということが言われることがある。確かに定位がはっきり聞き取れる場合もあるかもしれないが、私の乏しい経験では生演奏で定位は聞き取れないことが多い。たしかに目で見ると左にバイオリン、右にベースとなっているが最前列でもない限り音は渾然一体となり定位はわからない。そしてCDなどから定位がはっきり聞き取れるとしたらそれはマルチマイクによる録音だと思うのですこしがっかりする。そんなわけで評価に定位はあまり入らない。
さて能書きはこれくらいにしてCDの紹介を始めようと思う。
(1) Glenn Gould バッハ 6つの小プレリュード他
グールドと言えばゴールドベルグ協奏曲が有名であり、このアルバムはあまり有名ではないと思う。グールドが弾く小プレリュードは非常に感情が込められていて他のピアニストの演奏と全く違う。演奏の起伏やめりはりがどのように再現できるかを聞き音質の判断をしている。そして自分でもこの曲集の中の曲を弾くので(下手のなんとやら)自分で演奏する気になってタッチまで考えながら聞く。変な表現だが演奏がスイングするかどうかを聞いている。
(2) David Oistrach & Paul Badura-Skoda モーツアルト バイオリンソナタ集
1972年録音。良い演奏だと思う。聞いていて心にすーっと入って来る不思議な感じ。こういう演奏だと大変な音質評価も心穏やかに行うことができる。ポイントはバイオリンとピアノの定位。そしてバイオリンの音の心地よさをどう再現するか。このCDではどのトラックも同じように評価に使うことができる。珍しいCD。
(3) Wolfgang Sawallisch ブラームス ドイツ レクイエム
1983年録音でDDD。世の中でこれがどう評価されているかわからないが私にとっては名演奏であり名録音。聞くたびに涙が出てくる。何故かしらないが、、 第二楽章でオーケストラと合唱の分離がしっかりしているか?ホールの広さ感が伝わってくるか?などで判断している。
(4) Rostropovich & Britten シューベルト アルペジーネソナタ
素晴らしい演奏。チェロの低域から高域までの広い音域を無理なく出すか?低域がしっかり出るか?胴鳴りの感じが自然に出るかを聞く。そしてピアノとチェロのバランスも聞く。背筋が寒くなるような演奏に聞こえるといいと思う。
(5) Wolfgang Schneiderhan モーツアルト バイオリンソナタ(MONO)
モノラル盤での評価が必要な場合もある。例えば片CHのみ手を加えてその効果を確認する場合左右比較するのが楽だ。またモノラルが中央にきちんと定位するかを確認する場合もある。その場合にはモノラル盤を使う。
再度モーツアルトの曲だが良いものは良い。ピアノとバイオリンが混濁せずによく歌うか?バイオリンの音色が刺激的にならないかなどに注意して評価する。これを聞いているとモノラルでも十分だと思う。
(6) Bruno Walter, New York Philharmonic マーラー 交響曲5番(MONO)
録音はあまり良くないが第一楽章冒頭のファンファーレの実体間が表現されているかを聞く。その他にも聞き所は各所にあるがファンファーレ一発で判断するのがわかりやすい。トランペットが訴えかけてくる様子とそのわずかな反響から演奏空間(ホールでなくスタジオだと思う)を感じとれるかを聞いている。
評価に使っているCDをリストアップしてみた。これらの演奏は当然生で聞いたことがないので実際にどのような音で鳴っていたかわからない。仮に生で聞いたとしてどの席で聞いたかによって音が大きく変わる。
したがって私がこれらのCDに求めているイメージと再生する音がどれだけ近いかを聞いて評価している。私がどんな音が好きかが製品の音に反映する。
個人の嗜好が極端に入らないように時折親しい人の声を録音し再生して生の声と比較する。しかし音を判断する場合の優先順位はどうしても好きな音楽を自分のイメージ通りに再生させる方が高くなってしまう。
このように作り手の個性や経験が製品には反映されるので自分を磨いていかないとならないと思う。