カテゴリー別アーカイブ: アンプ

Linn Klimax Solo 800

Linnからフラッグシップのモノラルパワーアンプが発売されます。
ペアで1,540万円という超弩級のパワーアンプで、私には全く縁が無い製品です。

それでも興味があり製品紹介を読んでみました。
その中にAdaptive Bias Controlという言葉があり、読み進めてみると以下のような内容でした。

・AB級パワーアンプでは製造時に1度だけ出力トランジスタのバイアスを設定する。しかし使用している時には温度、部品の劣化やバラツキにより理想的なバイアス電流からはずれてしまう。
・そこで出力トランジスタのバイアス電流をリアルタイムに測定してFPGAで信号処理を施し出力トランジタのバイアスが最適値になるように制御する。
・この技術によって、AB級アンプにおいて避けられない問題を完全に解決した。

かなりびっくりしました。
この技術を搭載するパワーアンプをかつて開発していたからであり、それはActive Bias Control 以外の特徴も含めて製品コンセプトはKlimax Solo 800と非常に似通っていました。

私の場合、適応型バイアス制御に関してはほぼ完成していました。(制御プロセスの高速化が必要でその対応が必要でしたが)結果的にはパワーアンプを製品化しても利益が得られる見込みがなく製品化を断念しました。

当時、適応型バイアス制御の特許を申請しようと思い先行技術の調査をしましたが類似の技術が見つかりませんでした。世界初の技術かと喜ぶと同時にあまり効果がある技術ではないかもしれないと不安にも思いました。それでも製品化に向けて開発し特許の明細書も作成しましたが、上記の通りあきらめた次第です。特許を出願することなく終わっています。

AB級アンプにはスイートスポットとも言うべき最適なバイス電流(実際は電圧ですが)が存在します。この最適値を常に保つとパワーアンプの中で最も歪が大きい出力段の歪を減らすことができます。(出力段より前の入力段と電圧増幅段の歪は非常に少なくすることが可能です)
これが私が技術開発したモチベーションです。Linnもおそらく同じだと思います。
私とLinnの実現方法が同じなのかはわかりません。

当時私が考えた方法を簡単に説明します。

パワーアンプがスピーカーを信号によって駆動している時にどのようにバイアス電流(無信号時の出力トランジスタの電流)を測定するか?

パワーアンプの出力電圧が0Vの時に出力トランジスタの電流を測定できればそれがバイアス電流です。
パワーアンプの出力電圧と出力トランジスタの電流をADコンバータで測定し、出力電圧が0Vの時の電流を測定します。そのためには高速のOPアンプやADコンバータが必要ですが、速度に限界があるので統計的な手法を使いAD変換したデータから無信号時のバイアス電流を推定するアルゴリズムを考えました。
得られた結果によりDAコンバータでバイアスの制御を行います。またパラレル接続の出力トランジスタの制御は、加算回路で各トランジスタのバイアスの平均値を求めて制御しました。

多分Linnの場合は物量作戦で超高速AD変換器をトランジスタ毎に設けていると思われます。
制御方法に関しても様々な手法を試して最適バイアス値の±1%以内に収めることができました。制御がはずれて暴走した時の安全対策も含めてかなり苦労しました。

私にとっては幻と消えた技術ですが、Linnが同じ技術を製品化したことは私の目のつけどころが間違っていなかったので非常に嬉しいです。バイアス制御により、音質がどの程度改善するか実際に聴いてみたいと思います。





パワーアンプの設計

またまた投稿の間隔が開いてしまいました。

前回の投稿の後、熊本地震があり無くなった方、行方不明の方、そして避難生活をされている方々がいらっしゃいます。大変遅くなりましたが心よりご冥福とお見舞いを申し上げます。僅かながら義捐金を寄付させていただきました。

私の住んでいる松本市にも多くの活断層があり地震の発生する確率が高いと言われています。災害の備えをしないとならないと思いつつなかなか手をつけられていません、、、

以前のブログでも書きましたが安曇野市に光城山という桜の名所があります。先日そこに登って来ました。前回は家内と一緒にのぼりましたが今年は一人で行きました。どれだけ早く駆け上れるかちょっと頑張ってみました。麓から19分位でした。これは年齢を考えばまずまずの時間だと思います。

下のほうの桜は既に散っていましたが山頂近くの桜は見ごろでした。山頂付近から西側には常念山脈が綺麗に見えて本当に素敵な景色です。

光城山2016

花見のシーズンなので平日にもかかわらず海外の方を含めて非常に多くの人達が訪れていました。私は20年以上前から時折ここを訪れていたましたがこれほど賑わっていませんでした。またインバウンドの時代を反映してか海外の方が来ていることに驚きました。例によって体の節々が痛くなりました。

さて現在パワーアンプの設計を行っています。調査・勉強に時間がかかってしまいましたが製品のコンセプトが決まりおおよその回路構成が決まりました。頭の中ではほぼできていますが設計でてこずっています。詳細は書けませんが基本的な構成は極めて普通の回路です。

つまり初段はトランス・コンダクタンス・アンプ* → 2段目はトランス・インピーダンス・アンプ* 出力段はBJTまたはMOSFETによるコンプリメンタリー・エミッタ・フォロアという3段構成です。あまりに普通の回路ですがそれぞれに工夫を加えて最良の特性と音質を実現することを目指しています。そして+αの機能を加えようと思います。

しかし回路シミュレーションで思ったような特性が得られず苦労しています。シミュレーションでは何回でもやりなおしが簡単にできるのでこの段階で目一杯苦労したいと思います。試作段階になるとシミュレーションの100倍くらいイタレーションが大変になります。

それにしても仕事が遅くて困ります、、、 トホホ

*トランス・コンダクタンス・アンプは電圧入力を電流出力に変換するアンプのことです。アンプの増幅率は出力を入力で割ります。出力が電流で入力が電圧なのでアンプの増幅率=出力電流÷入力電圧 です。  入力から出力に電流/電圧(=コンダクタンス)を伝達するのでこう呼びます。V/I変換とも言います。

トランス・インピーダンス・アンプはこの逆で電流入力を電圧出力に変換するアンプです。I/V変換とも言います。電圧出力を出力段でバッファしてスピーカーを駆動します。

なぜ電流変換して再び電圧に戻すのでしょうか?幾つか理由があります。最大の理由は電流に変換すると電圧の変化が減少するのでトランジスタの電極間容量などを充放電する必要がなくなることだと思います。電極間容量はトランジスタの動作条件により変化するので歪の原因になります。

今日はここまで、、

MUTE回路について

大変遅くなりましたが

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

2016年は穏やかな年明けを迎えましたが、この1週間ほど冬らしい天気で各地で大雪が降っています。

大きな災害にならないことを祈っています。

私が住んでいる松本でも大雪が降りました。その後寒さが続き雪が凍って外出時に滑らないように気を使います。

先日久しぶりに以前勤めていた会社の仲間と飲む機会がありました。その際「最近ブログが全然更新されていないじゃないか」とお叱りを受けました。色々と忙しくてついつい更新を先延ばしにしていました。これからは頑張って書こうと思います。

いままで次の製品の設計のために勉強していましたがそれが終了して設計作業に移行しています。数種類の回路方式を候補して検討しています。性能、商品性、コスト、独自性など考慮しながら絞り込みをしようとしています。最終的には2~3種類の回路が評価できるブレッドボードを試作して回路を決めたいと思います。

そんな折に受託の依頼があったので受けるか迷いしました。しかし他の製品を設計していれば良いアイデアやヒントが浮かぶかもしれないと思って受けることにしました。

この設計でMUTE回路について検討しましたので書きたいと思います。

ラインアンプ等では信号経路とグランド間にスイッチを入れてMUTEします。こうすると信号経路にスイッチが入らないので接点による特性への影響がありません。私はプリアンプの出力にリレーによるMUTE回路を使っています。この方法は理論的にMUTE回路による信号劣化は皆無です。

受託の設計ではスペースと消費電流の点から半導体を使ったMUTEを試して見ることにしました。

LTspiceを使って特性を調べてみました。回路は以下の通りです。

MUTE_CIR

MUTEがかかっていない状態の歪率を測定した結果は以下の通りです。信号は1kHz 2Vp-pです。僅かですが歪が発生しています。9次までのTHDは約0.00002%なので無視できるレベルかもしれませんが気になります。

MUTE_FFT

またMUTEによる減衰量は26dBでした。電源オン時のポップノイズを防止するためにはこれで良いかもしれませんが減衰量にも不満があります。もちろんR2を大きくすれば減衰量は増えますがあまり大きくすると弊害があるので減衰量は20-30dBがいいところでしょう。

結局今回のMUTE回路もリレーを使用することにしました。

MUTEがかかっていない時に歪が発生する理由ははっきりしません。アーリー効果による抵抗とコレクタ=ベース間容量がVceによって変動することが原因だと想像できます。トランジスタのモデルのこのパラメータを変更してみましたが歪は減りませんでした。他のパラメータが影響していると考えられます。今回は半導体のMUTEを使用しないのでこれ以上の解析はしません。いずれしっかりと確認したいと思います。しかし一般論としてアーリー電圧が高く、電極間容量の少ないトランジスタがMUTEには向いていると思います。

上記回路ではNPNトランジスタを使っていますがQ2をPNPに変更してみました。歪はなんと30dB以上増加しました。やはりPNPは特性が悪いです。

またオーディオ雑誌のメーカ製品の紹介記事の回路ではMUTE回路をNPNトランジスタ一つで実現しています。私も最初はこの回路を真似て確認してみました。しかし1石の回路ではMUTE時に出力が半波整流波形になりMUTEが機能しません。半導体MUTEを検討する場合には注意が必要です。

あと数日寒い日が続くようですが皆さん気をつけてお過ごしください。

アンプ(P-300X)の修理(その3)

木曽の御嶽山が噴火して多くの方々が怪我をしたり生き埋めになっているとのこと。過去にも御岳が噴火したことがあったが人的な被害は無かったと思う。ところが今回は想像以上の被害で驚いている。一刻も早く山に居る方々が無事下山されることと、救助隊の方々に二次被害が無いことを祈っております。

また噴火に伴い飛行機の運航にも影響が出ている。私は2010年のアイスランドの火山噴火の際UKに出張していて飛行機が飛ばず足止めを食ったことを思い出す。今回の噴火が空の便に影響が出ないように、またそれ以上に農業や日常の生活に影響が出ないといいのですが、、

さてアンプの修理について。初段の電圧がおかしいので不安になったが原因がわかった。P-300Xは負帰還の抵抗とDCサーボ回路が並列に入っている。アンプの部品を一部はずした状態では負帰還用の抵抗がDCサーボ回路にとっては正帰還抵抗として作用してしまう。これが原因で初段の電圧がおかしいことがわかった。

部品を前段側から順番に実装しながら都度動作確認を行った。最後に出力段のトランジスを実装する。どうやら正常に動作しているようだ。ただ組み立てで問題が発生。出力段の代替トランジスタがオリジナル品より大きくてトランジスタの間に実装してある温度補償用サーミスタ(?)が実装できない。しかたなく下のようにサーミスタを実装した。トランジスタの取り付けネジを使って共締めしようと思ったが底板とのクリアランスが足りないので銅テープを使って取り付けた。

P300Xout

温度補償の条件が修理前と異なるがアイドリング電流の安定度には問題が無さそう。しかし時間をかけて確認する必要がある。

また交換に使った半導体はオリジナルと同じ型番の部品だがセカンドソースだった。(中国製?)セカンドソース品は最大定格などに問題があるケースがあると聞いている。

P-300Xの回路を確認すると電源電圧が変化しても増幅回路の動作点はほとんど変化しない。(電源電圧のほとんどをカスコード部で吸収しているので。)よって安全のためにAC入力を117Vに設定して動作電圧を下げた。出力電力が約70%程度に低下する。P-300Xの定格出力は150W/8Ωであるがこれが100W強になる。しかし通常使用の場合は100W出れば充分。安心のほうが大事だ。

簡単に特性の測定を行った。

出力が約1W時の周波数特性。ピンクはサブソニック・フィルタがオンの状態の特性。

P300X_frequency

 

歪率の測定は出力20Wまでしか行っていない。ドライバー段などに使用した代替部品に不安があるので最大出力まで測定するのは避けた。P-300Xのパンフレットに載っているオリジナルの特性は下記特性よりもさらに低歪みだ。製造後30年を経過しているし、今回全ての電解コンデンサを交換することができなかった。また保護回路のリレーの接点も劣化しているだろう。このことを考えれば合格だと思う。

P300X_distortion

非常に多くの部品が壊れていた。また空いている時間を使って修理したのでだいぶ時間がかかってしまった。故障の真因がはっきりしないのが気がかりだが各部の電圧は正常だ。1週間程度エージングして問題なければ完了としたい。

アンプ(P-300X)の修理(その2)

9月19日はスコットランド独立の国民投票の開票があり仕事がほとんど手につかなかった。結局独立反対が過半数となり独立はまぬがれた。本当に良かった。家内と一緒に喜んだ。

それでも独立派は数年前は誰も無理だと思っていた独立要求をキャメロンに認めさせて、国民投票に持ち込み、賛成派が過半数を占める迄にあと僅かのところまでこぎ着けた。この執念と実行力は大したものだ。キャメロンが国民投票間際にうろたえたことや、2012年に国民投票を認めたことが批判されている。

しかし某国は国民投票をすると負けるのが分かっているので国の重要な方向性を閣議決定で決めるという姑息な手段で済ませてしまった。それと比べたらUKはどんなに潔いことか。国民の将来を決める重要なことはどんなに苦しくても正直で誠実に国民の理解を得るべきである。(脱線ですいません)

さてP-300Xの部品がやっと届いた。前に書いたとおり故障の真因がはっきりしないので単純に部品を交換しても再び壊れてしまう恐れがある。そこで部品を実装する前に各部の電圧を測定して少しずつ部品を取り付けることにした。前回は初段の差動回路は壊れていないと判断したが電圧を測定すると何かおかしい。各部の動作点が微妙にずれているようだ。

ネットにある回路図を参考にして動作確認しているが回路的に理解できない部分がある。結局自分で回路のトレースをしなおした。その結果ネット上の回路図は約95%は正しいが微妙に違っていることがわかった。トレースして回路図を起こして各部の動作点や電流がやっと計算できた。

いままで理解できなかった初段の動作も理解できた。しかし電源電圧の変動や温度の変化に対しての挙動には未だにわからない部分がある。

今日は回路のトレースで終わってしまった。ひょっとすると正常だと判断した部品も壊れているかもしれない。そうなると増幅回路の半導体は全て交換となってしまう。このような壊れ方は過去に経験がない、、、 一体どのような故障なのだろうか?

明日は回路の再チェックをしつつ真空管オーディオフェアの準備も始めないと、、、

アンプの修理

知人に頼まれてまたアンプの修理を行っている。

直るかどうかわからないという条件でやっている。アンプはアキュフェーズのP-300Xというアンプ。ネットで調べてみると発売は1980年。今から34年前!それにしては外観が綺麗でキズもほとんど無い。

症状はと言うと電源は入るが音が出ない。蓋を開けて目視で確認したり、テスターで触れるところを見てみるがわからないので分解することにした。

kiban

アンプモジュールは放熱器と一体化されていてコネクタとネジを外すと簡単に取り出すことができる。メインテナンス性が良くありがたいし機構設計は参考になる。

回路図をネット上で調べたところ以前同機種を修理された方が回路図を起こしてアップされている。またP-300Xのパンフレットにも回路図が載っている!(確認したらこれは概念図であり正確な回路図ではないが)思えば30年以上前はパンフレットやマニュアルに回路図が載っていることは当たり前だった。あのころが懐かしい。

基板を外してみるとドライバーのMOS-FETとその前の電圧増幅段の抵抗が焼けていることがわかった。テスターで各デバイスのチェックを行うと左右とも電圧増幅段とドライバと出力段の全てが壊れている。

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回路図を見ると電圧増幅段が壊れると破壊モードによっては連鎖的に出力段まで壊れることがわかる。しかし左右同時に破壊されるにはなにか根本の原因がある筈。それを探したが見つからない。なんとも言えないが故障の原因は誘雷?かと思いたくなる。

さすがに30年以上前の製品なのでオリジナルの半導体部品を入手するのが困難だ。それでも一部はオリジナルが入手可能。その他は代替品を探して発注した。

部品が届いたら慎重に進めないとまた壊れてしまうので作戦を考えておくことにする。うまく修理できればいいが、、、